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あはれとし思はむ人は別れじを
心は身よりほかのものかは

歌の意味
本当にいとしいと思うような人ならば、別れたりはしないだろうに。心は身と別のものだろうか、いや、そうではない。
鑑賞
巻第七 離別歌 489

詞書「筑紫にまかりける男、京に上るとて、門出の所より女のもとに、上るべき心地なんせぬと言へりける返事に遣はしける」
 筑紫に下っていた男が京へ上るにあたり、旅立ちの場所から女のもとへ、都へ上る気持ちがしないと言ってきたので、その返事として女が贈った歌である。本当にいとしいと思うような人なら別れたりはしないだろうに、心は身と別のものだろうか、と詠む。身は都へ上りながら心はあなたのもとに残る、と言う男に対し、身が去るなら心も去ったのだ、と切り返し、別れてゆく男の言葉の空しさをとがめている。
 作者の「読人不知」は、作者の名が伝わらないことを示す。
 第四百八十五首、第四百八十六首に続き、筑紫から都へ上る人との別れの歌である。

 初句「あはれとし」の「あはれ」は、いとしい、の意、「し」は強意の副助詞である。
 二句「思はむ人は」の「む」は婉曲の助動詞で、いとしいと思うような人は、の意である。
 三句「別れじを」の「じ」は打消し推量の助動詞、「を」は逆接の接続助詞で、別れはしないだろうに、の意である。ここで句切れとなる。
 四句「心は身より」は、心は身とは、の意で、男の上る気持ちがしないという言葉、すなわち心はここに残るという言い分を受けている。本巻の第四百九十二首は、心を宿にとどめ置いて旅立つと詠み、本歌が退ける心と身を分ける発想をそのまま歌にしている。
 結句「ほかのものかは」の「かは」は反語で、心は身と別のものだろうか、いや別ではない、の意である。

かどで:旅立ちのために家を出ること、またその出発の場所
のぼる:地方から都へ行く
作者
よみ人しらず
出典
千載和歌集
前の歌
長らへてあるべき身とし思はねば 忘るなとだにえこそ契らね
次の歌
別れても同じ都にありしかば いとこのたびの心地やはせし