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いつしかの音になきかへり来しかども
野辺の浅茅は色づきにけり

歌の意味
早く早くと声をあげて泣きながら帰って来たけれども、野辺の浅茅は、もうすっかり色が変わってしまっていた。
鑑賞
巻第十二 恋歌四 873

詞書「大和の守に侍りける時、かの国の介藤原清秀が娘を迎へむと契りて、公事によりてあからさまに京に上りたりけるほどに、この娘、真延法師に迎へられてまかりにければ、国に帰りて尋ねてつかはしける」
 早く早くと泣きながら帰って来たが、野辺の浅茅はもう色づいてしまっていた、と詠んだ歌である。迎えると約束した女のもとへ急いで帰ったのに、すでにほかの人のもとへ去っていたことを、色の変わった浅茅にたとえて嘆いている。
 詞書によれば、作者が大和守であったとき、その国の介藤原清秀の娘を迎えようと約束したが、公務でしばらく京に上っている間に、娘は真延法師に迎えられて去ってしまったので、国に帰ってから尋ねて送った歌である。
 作者の「忠房朝臣」は藤原忠房である。藤原是嗣(興嗣とも)の子で、大和守、山城守などを経て右京大夫に至った。

 初句「いつしかの」は、早く早くと、の意で、待ち遠しく思う気持ちを表している。
 二句「音になきかへり」は、声をあげて泣きながら帰って、の意で、「なき」に「泣き」と「鳴き」を掛けている。
 三句「来しかども」は、来たけれども、の意で、「ども」は逆接を表す。
 四句「野辺の浅茅は」は、野辺の丈の低い茅は、の意で、女をたとえている。
 結句「色づきにけり」は、色が変わってしまっていた、の意で、女が心変わりして去ったことをたとえている。「けり」は気づきの詠嘆を表す。

すけ:国司の次官
あさぢ:丈の低い茅。荒れた野に生える
いろづく:色が変わる。ここでは心変わりのたとえ
作者
藤原忠房
出典
後撰和歌集
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