涙川いかなる瀬より帰りけん
見馴るるみをもあやしかりしを
- 歌の意味
-
涙の川の、どんな瀬から帰っていったのだろう。見慣れた澪筋でさえ、あやしく思われたのに。
- 鑑賞
-
巻第十二 恋歌四 889
詞書「返し」
涙の川のどんな瀬から帰ったのだろう、見慣れた澪筋さえあやしく思われたのに、と詠んだ歌である。浅瀬がわからないと嘆く男に対し、見慣れたあなたの身でさえ不審に思っていたのにと、男の心をいぶかしむように応じている。
前歌の第八百八十八首への返しである。前歌の「涙川」「浅瀬」を受けて、「涙川」「瀬」で応じている。
作者の大輔は女房で、詳しい出自は定かでない。小野道風、藤原朝忠、藤原敦忠らと恋の歌を交わしたことで知られる。
初句「涙川」は、涙の川の、の意で、前歌の三句を受けている。
二句「いかなる瀬より」は、どんな瀬から、の意で、前歌の「浅瀬」を受けている。
三句「帰りけん」は、帰ったのだろう、の意で、「けん」は過去の推量を表す。ここで句切れとなる。
四句「見馴るるみをも」は、見慣れた澪筋も、の意で、「みを」に舟の通る水路の「澪」と「身を」を掛け、見慣れた相手の身をも、の意を重ねている。
結句「あやしかりしを」は、あやしく思われたのに、の意で、「を」は逆接で余情を残している。
みを:舟の通る水路の「澪」と、「身を」を掛ける
- 作者
-
大輔
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
帰るべき方もおぼえず涙川 いづれか渡る浅瀬なるらむ
- 次の歌
-
池水のいひ出づることのかたければ みごもりながら年ぞ経にける