古典和歌stream

蓮葉の上はつれなきうらにこそ
物あらがひはつくといふなれ

歌の意味
蓮の葉の表は素知らぬ顔をしているが、その裏にこそ、浦に貝がつくように、言い争う心はつくものだというではないか。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 903

詞書「消息は通はしけれど、まだ逢はざりける男を、これかれ逢ひにけりと言ひ騒ぐを、あらがはざなりと恨みつかはしたりければ」
 蓮の葉の表は素知らぬ顔でも、その裏にこそ言い争う心はつくものだという、と詠んだ歌である。表向きは平然としていても、心の内では噂を強く打ち消しているのだと、自分の本心を蓮の葉の表と裏にたとえて伝えている。
 詞書によれば、手紙は交わしていたがまだ逢っていない男との仲を、人々がもう逢ったと言い騒いだところ、男が「打ち消さないようだ」と恨んでよこしたので、それに答えた歌である。「うら」と「あらがひ」に浦と貝を重ね、言葉遊びを交えて機知で答えている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「蓮葉の」は、蓮の葉の、の意で、表と裏を持つものとして示されている。
 二句「上はつれなき」は、表面は素知らぬ顔をしている、の意で、噂を聞いても平然としている自分の様子をたとえている。
 三句「うらにこそ」は、裏にこそ、の意で、「うら」に葉の「裏」と海辺の「浦」を掛けている。「こそ」は強めの係助詞である。
 四句「物あらがひは」は、言い争うことは、の意で、「あらがひ」に「争ひ」と、浦の縁語の「貝」を掛けている。
 結句「つくといふなれ」は、つくというではないか、の意で、「なれ」は伝聞の助動詞「なり」の已然形で、三句の「こそ」を受けて結ぶ係り結びとなっている。

はちすば:蓮の葉
うら:葉の「裏」と、海辺の「浦」を掛ける
あらがひ:言い争うこと、打ち消すことの意の「争ひ」に「貝」を掛ける
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
賤機に思ひ乱れて秋の夜の 明くるも知らず嘆きつるかな
次の歌
降りやめば跡だに見えぬうたかたの 消えてはかなき世を頼むかな