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影見ればいとど心ぞまどはるる
近からぬけの疎きなりけり

歌の意味
その姿絵を見ると、いっそう心が惑ってしまう。これは親しくもない物の怪の、疎ましい姿であったのだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 910

詞書「返し」
 姿絵を見るといっそう心が惑う、親しくもない物の怪の疎ましい姿であった、と詠んだ歌である。前歌で鬼の絵を自分の顔だと言って送られたのに対し、そんな恐ろしい顔では慰めにならず、かえって心が乱れると、冗談で切り返している。
 前歌の第九百九首への返歌で、前歌の「影」を初句で受けている。女どうしの親しい間柄ならではの、戯れの贈答である。
 作者の伊勢は、藤原継蔭の娘で、宇多天皇の中宮温子に仕え、宇多天皇の寵を受けた。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。

 初句「影見れば」は、姿絵を見ると、の意で、前歌の「影」を受けている。
 二句「いとど心ぞ」は、いっそう心が、の意で、「ぞ」は強めの係助詞である。
 三句「まどはるる」は、惑わされる、の意で、二句の「ぞ」を受けて連体形で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなる。
 四句「近からぬけの」は、親しくもない物の怪の、の意で、「け」は物の怪をいい、鬼の絵を指している。
 結句「疎きなりけり」は、疎ましいものであった、の意で、「けり」は気づきの詠嘆を表している。前歌の「うちとけて」に対し、「疎き」で応じている。

け:物の怪、人にとりつく怪しいもの
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
恋しくは影をだに見て慰めよ 我がうちとけて忍ぶ顔なり
次の歌
人言のうきをも知らずありかせし 昔ながらの我が身ともがな