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忘れむと言ひしことにもあらなくに
今は限りと思ふものかは

歌の意味
忘れようと言ったわけでもないのに、今はもうこれまでだと、どうして思うことがあろうか。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 924

詞書「怨みおこせて侍りける人の返事に」
 忘れようと言ったわけでもないのに、今はもうこれまでだとどうして思うものか、と詠んだ歌である。恨みごとを言ってきた相手に対し、自分から別れを言い出したわけではないのだから、終わりだなどと思ってはいないとなだめている。
 詞書によれば、恨みを言ってよこした人への返事として送った歌である。次歌の第九百二十五首も同じ詞書のもとに置かれ、恨む相手への返事が二首続いている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「忘れむと」は、忘れようと、の意で、「む」は意志の助動詞である。
 二句「言ひしことにも」は、言ったことでも、の意である。
 三句「あらなくに」は、ないのに、の意で、「なくに」は打消しを含む逆接の表現である。
 四句「今は限りと」は、今はもうこれまでと、の意で、仲の終わりを表している。
 結句「思ふものかは」は、思うものか、いや思いはしない、の意で、「かは」は反語の終助詞である。

かぎり:終わり、最後
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
言の葉もみな霜枯れになりゆくは 露の宿りもあらじとぞ思ふ
次の歌
現には臥せど寝られず起きかへり 昨日の夢をいつか忘れん