古典和歌stream

深く思ひそめつと言ひし言の葉は
いつかあき風吹きて散りぬる

歌の意味
深く思いはじめた、深く心を染めたと言ったあの言葉は、いつ飽きの秋風が吹いて散ってしまったというのか、散ってなどいない。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 933

詞書「女のもとより、定めなき心ありなど申したりければ」
 深く思いはじめたと言ったあの言葉は、いつ秋風が吹いて散ってしまったというのか、と詠んだ歌である。言葉を「言の葉」として木の葉に見立て、心変わりを疑う女に、自分の愛の言葉は飽きの風に散ってなどいないと答えている。
 詞書によれば、女から移り気な心があるなどと言ってきたので、それに答えた歌である。言葉を葉に見立て、「あき」の風に散ると詠む趣向は、本巻の第八百九十七首と共通しており、本歌はその疑いに男の側から答える形となっている。
 作者の「贈太政大臣」は藤原時平である。藤原基経の長男で、左大臣に至り、没後に太政大臣を贈られたためこう呼ばれる。菅原道真を大宰府に左遷したことで知られる。

 初句「深く思ひ」は、深く思い、の意で、六音の字余りとなっている。
 二句「そめつと言ひし」は、思いはじめたと言った、の意で、「そめ」に「初め」と、初句の「深く」と縁のある「染め」を掛けている。
 三句「言の葉は」は、言葉は、の意で、「葉」が四句以下の「風」「散る」と縁語になっている。
 四句「いつかあき風」は、いつ秋風が、の意で、「あき」に季節の「秋」と心が離れる「飽き」を掛けている。「か」は反語の係助詞である。
 結句「吹きて散りぬる」は、吹いて散ってしまったのか、の意で、四句の「か」を受けて連体形「ぬる」で結んでいる。

そむ:「初む」と、色に「染む」を掛ける
ことのは:言葉
あき:季節の「秋」と、心が離れる「飽き」を掛ける
作者
藤原時平
出典
後撰和歌集
前の歌
松山の末越す浪のえにしあらば 君が袖には跡もとまらじ
次の歌
人をのみ恨むるよりは心から これ忌まざりし罪と思はむ