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淵ながら人通はさじ涙川
渡らば浅き瀬をもこそ見れ

歌の意味
淵のままにして、人を通わせはしない、涙の川は。渡ったならば、浅い瀬、つまりあなたの浅い心を見てしまうかもしれないから。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 947

詞書「返し」
 淵のままで人を通わせはしない涙の川は、渡ったら浅い瀬を見てしまうかもしれないから、と詠んだ歌である。前歌の涙川を受け、渡ってしまえばあなたの心の浅さが見えてしまうかもしれないと、男の求愛をかわしている。
 前歌の第九百四十六首への返歌である。前歌の淵、涙川、瀬をそのまま受け、渡れる瀬を求める男に、渡れば浅い瀬が見えると返して、深さと浅さを反転させている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「淵ながら」は、淵のままで、の意で、前歌の「淵」を受けている。
 二句「人通はさじ」は、人を通わせはしない、の意で、「じ」は打消しの意志の助動詞である。ここで句切れとなる。
 三句「涙川」は、涙の川、の意で、前歌の三句と同じ語である。
 四句「渡らば浅き」は、渡ったならば浅い、の意で、「ば」は仮定の条件を表す。
 結句「瀬をもこそ見れ」は、瀬を見てしまうかもしれない、の意で、「もこそ」は悪い事態を危ぶむ表現で、已然形「見れ」で結ぶ係り結びとなっている。前歌の「瀬」を受け、浅い心を表している。

ふち:川の水の深い所
せ:川の浅い所。ここでは浅い心をたとえる
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
塞きもあへず淵にぞ迷ふ涙川 渡るてふ瀬を知るよしもがな
次の歌
きて帰る名をのみぞたつ唐衣 下結ふ紐の心解けねば