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きて帰る名をのみぞたつ唐衣
下結ふ紐の心解けねば

歌の意味
来ては帰るという評判ばかりが立つことだ。唐衣の下に結んだ紐が解けないように、あなたの心が打ち解けないので。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 948

詞書「常に詣で来て物など言ふ人の、今はな詣で来そ、人もうたて言ふなり、と言ひ出だして侍りければ」
 来ては帰るという評判ばかりが立つ、唐衣の下紐が解けないようにあなたの心が打ち解けないので、と詠んだ歌である。通っても逢瀬を許されないまま、噂だけが立つ不満を、衣に関わる縁語を連ねて詠んでいる。
 詞書によれば、いつも訪ねて来て話などしていた男に、女が「もう来ないで、人も嫌なことを言っているそうだ」と言ってきたので、男が答えた歌である。噂を気にする女に対し、噂ばかりで実のない仲を恨んでいる。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「きて帰る」は、来ては帰る、の意で、「きて」に「来て」と、衣の縁語の「着て」を掛けている。
 二句「名をのみぞたつ」は、評判ばかりが立つ、の意で、「たつ」に評判が「立つ」と衣を「裁つ」を掛けている。「ぞ」は強めの係助詞で、連体形「たつ」で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなる。
 三句「唐衣」は、中国風の美しい衣、の意で、「着る」「裁つ」「紐」と縁語になっている。
 四句「下結ふ紐の」は、衣の下に結んだ紐の、の意で、「心」を導いている。
 結句「心解けねば」は、心が打ち解けないので、の意で、紐が「解け」ることと心が「解け」ることを重ねている。

きて:「来て」と、衣を「着て」を掛ける
たつ:評判が「立つ」意と、衣を「裁つ」意を掛ける
からころも:唐風の美しい衣
したひも:下着や袴の紐
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
淵ながら人通はさじ涙川 渡らば浅き瀬をもこそ見れ
次の歌
絶えぬとも何思ひけん涙川 流れあふ瀬もありけるものを