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ありしだに憂かりしものを飽かずとて
いづこに添ふるつらさなるらん

歌の意味
以前のままでさえつらかったのに、それでもまだ足りないといって、いったいどこに付け加えるつらさなのだろうか。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 952

詞書「左大臣につかはしける」
 以前のままでさえつらかったのに、まだ足りないといってどこに付け加えるつらさなのだろう、と詠んだ歌である。もともとつらい思いをさせられていたのに、さらに冷たくされることへの恨みを、皮肉を込めて訴えている。
 詞書によれば、左大臣藤原実頼に送った歌である。前の第九百五十首、第九百五十一首に続き、実頼をめぐる贈答の歌が配されており、次歌の第九百五十三首も実頼の歌である。
 作者の中務は、宇多天皇の皇子敦慶親王と伊勢の娘である。三十六歌仙の一人に数えられる。

 初句「ありしだに」は、以前のままでさえ、の意で、「だに」は程度の軽いものを挙げて重いものを類推させる副助詞である。
 二句「憂かりしものを」は、つらかったのに、の意で、「ものを」は逆接の接続助詞である。
 三句「飽かずとて」は、まだ満足しないといって、の意である。
 四句「いづこに添ふる」は、どこに付け加える、の意である。
 結句「つらさなるらん」は、つらさなのだろうか、の意で、「らん」は現在の推量を表す助動詞「らむ」である。

あく:満足する、十分だと思う
そふ:付け加える
作者
中務
出典
後撰和歌集
前の歌
人はいさ深山隠れの郭公 慣らはぬ里は住み憂かるべし
次の歌
思ひわび君がつらきに立ち寄らば 雨も人目ももらさざらなん