濡れつつもくると見えしは夏引きの
手引きに絶えぬ糸にやありけん
- 歌の意味
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雨に濡れながらも来ると見えていたのは、夏引きの糸を手で繰るように、引いても切れない糸のような心だったのだろうか。
- 鑑賞
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巻第十三 恋歌五 976
詞書「雨にもさはらず詣で来て、そら物語などしける男の、門より渡るとて、雨のいたく降ればなむまかり過ぎぬる、と言ひたれば」
雨に濡れながらも来ると見えていたのは、手で引いても切れない夏引きの糸のような心だったのだろうか、と詠んだ歌である。以前は雨もいとわず来た男が、今は雨を理由に通り過ぎることを、切れてしまった糸にたとえて皮肉を込めて責めている。
詞書によれば、以前は雨にも妨げられずに来て世間話などしていた男が、門の前を通り過ぎるときに、雨がひどいので通り過ぎると言ってきたので答えた歌である。糸、繰る、引く、絶ゆといった糸の縁語を連ね、心変わりを責めている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「濡れつつも」は、雨に濡れながらも、の意である。
二句「くると見えしは」は、来ると見えたのは、の意で、「くる」に「来る」と糸を「繰る」を掛けている。
三句「夏引きの」は、夏に糸を引き出して紡ぐ、の意で、四句の「手引き」を導いている。
四句「手引きに絶えぬ」は、手で引いても切れない、の意で、糸に男の心をたとえている。
結句「糸にやありけん」は、糸であったのだろうか、の意で、「や」は疑問の係助詞で、連体形「けん」で結ぶ係り結びとなっている。今は切れてしまったという含みがある。
くる:「来る」と、糸を「繰る」を掛ける
なつひき:夏に蚕の繭から糸を引き出すこと、またその糸
てびき:手で糸を引くこと
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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常よりもまどふまどふぞ帰りつる 逢ふ道もなき宿に行きつつ
- 次の歌
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数ならぬ身はうき草となりななん つれなき人に寄るべ知られじ