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ありとだに聞くべきものを逢坂の
関のあなたぞはるけかりける

歌の意味
せめて無事でいると聞くだけでもしたいのに、逢坂の関の向こうは、はるかに遠いことだ。
鑑賞
巻第十三 恋歌五 981

詞書「男の離れ果てぬに、異男をあひ知りて侍りけるに、もとの男の東へまかりけるを聞きてつかはしける」
 せめて無事でいると聞くだけでもしたいのに、逢坂の関の向こうははるかに遠い、と詠んだ歌である。東国へ下ったもとの夫の消息さえ届かない遠さを嘆き、別れきれない未練を伝えている。
 詞書によれば、夫とすっかり別れたわけではないうちに別の男と親しくなっていた女が、もとの夫が東国へ下ったと聞いて送った歌である。この歌から第九百八十四首まで、逢坂の関を詠む贈答が四首続いている。逢坂は本巻の第九百五首でも詠まれている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「ありとだに」は、無事でいるとだけでも、の意で、「だに」は最小限の願いを示す副助詞である。
 二句「聞くべきものを」は、聞きたいのに、の意で、「ものを」は逆接の接続助詞である。
 三句「逢坂の」は、逢坂の、の意で、東国へ向かう道の関所である。
 四句「関のあなたぞ」は、関の向こうは、の意で、「ぞ」は強めの係助詞である。
 結句「はるけかりける」は、はるかに遠いことだ、の意で、四句の「ぞ」を受けて連体形「ける」で結ぶ係り結びとなっている。

あなた:向こう、あちら側
はるけし:遠く隔たっている
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
いづ方にことづてやりて雁がねの 逢ふことまれに今はなるらん
次の歌
関守が改まるてふ逢坂の 木綿付け鳥は鳴きつつぞ行く