うき世とは思ふものから天の戸の
あくるはつらき物にぞ有りける
- 歌の意味
-
つらい世の中だとは思っていたものの、天の戸が開くように夜が明けてしまうのは、ことさらつらいものであったよ。
- 鑑賞
-
巻第十四 恋歌六 996
詞書「自らまうで来て、夜もすがら物言ひ侍りけるに、程なく明け侍りにければ、まかり帰りて」
この世はつらいものだとは思っていたが、天の戸が開くように夜が明けるのはことにつらいものだった、と詠んだ歌である。世のつらさを常々知りながらも、恋人との語らいを断ち切る夜明けのつらさはそれにまさると嘆いている。
詞書によれば、自分から相手のもとを訪ねて一晩中語り合っていたところ、間もなく夜が明けてしまったので、帰ってから詠んだ歌である。前の贈答が逢瀬のとどこおりを詠んだのに対し、本歌は逢えた夜の短さを嘆いており、逢えない嘆きと逢えた後の嘆きが並べられている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「うき世とは」は、つらい世の中だとは、の意で、「うき」は「憂し」の連体形である。
二句「思ふものから」は、思うものの、の意で、「ものから」は逆接の接続助詞である。
三句「天の戸の」は、天の岩戸の、の意で、天の戸が開くことから夜明けを導いている。
四句「あくるはつらき」は、夜が明けるのはつらい、の意で、「あくる」に天の戸が「開くる」意と、夜が「明くる」意を掛けている。
結句「物にぞ有りける」は、ものであったよ、の意で、係助詞「ぞ」を受けて連体形「ける」で結ぶ係り結びとなっている。「けり」は気づきの詠嘆を表す。
あまのと:天の岩戸。開くことから夜明けを導く
あく:天の戸が開く意と、夜が明ける意を掛ける
まうでく:参上する、訪ねて来る
まかりかへる:退出して帰る
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
みつのもりもるこのころのながめには 怨みもあへずよどの河浪
- 次の歌
-
恨むれど恋ふれど君が世とともに 知らず顔にてつれなかるらん