古典和歌stream

訪ふやとて杉なき宿に来にけれど
恋しきことぞしるべなりける

歌の意味
訪ねて来てくれるかと待っているかと思って、目印の杉もない家にやって来たが、恋しい思いこそが道しるべであったのだ。
鑑賞
巻第十四 恋歌六 1007

詞書「題しらず」
 訪ねてくれるかと思って、目印の杉もない家にやって来たが、恋しい思いこそが道しるべであった、と詠んだ歌である。三輪の杉を目当てに訪ねよという古歌を踏まえ、目印がなくても恋しさに導かれてたどり着けたと詠んでいる。
 古今和歌集雑歌下のよみ人しらずの歌「わが庵は三輪の山もと恋しくはとぶらひ来ませ杉立てる門」を踏まえている。同じ「しるべ」の語は本巻の第千二十一首にも見え、そこでは思い続けた年月が心を導くしるべとされている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「訪ふやとて」は、訪ねて来てくれるかと思って、の意で、「とて」は、と思って、の意を表す。
 二句「杉なき宿に」は、目印の杉もない家に、の意で、三輪の山もとの杉立てる門を詠んだ古歌を踏まえている。
 三句「来にけれど」は、来てしまったけれど、の意で、「ど」は逆接の接続助詞である。
 四句「恋しきことぞ」は、恋しい思いこそが、の意で、「ぞ」は強めの係助詞である。
 結句「しるべなりける」は、道しるべであったのだ、の意で、四句の「ぞ」を受けて連体形「ける」で結ぶ係り結びとなっている。本巻の第千二十一首の三句「しるべにて」と同じ語を用いている。

しるべ:道しるべ、道案内
やど:住まい、家
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
忘られて年ふるさとの郭公 なにに一声鳴きてゆくらん
次の歌
露の命いつとも知らぬ世の中に などかつらしと思ひおかるる