古典和歌stream

さしてこと思ひしものをみかさ山
かひなく雨のもりにけるかな

歌の意味
傘をさして、私を目指して来てほしいと思っていたのに、三笠山の名の御笠もかいがなく、雨が漏ってしまったことよ。
鑑賞
巻第十四 恋歌六 1029

詞書「男のもとに、雨降る夜傘をやりて呼びけれど、来ざりければ」
 傘をさして来てほしいと思っていたのに、三笠山の名もかいなく、雨が漏ってしまった、と詠んだ歌である。贈った傘も役に立たず、男が来なかったことを、傘から雨が漏るさまにたとえて恨んでいる。
 詞書によれば、雨の降る夜、男のもとに傘を送って呼んだが、来なかったので詠んだ歌で、次歌の第千三十首に男の返しが置かれている。本巻の第千十一首も、雨の夜に傘を借りに来た男をめぐる歌で、雨と傘に寄せた歌が重ねて置かれている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「さしてこと」は、傘をさして来いと、の意で、「さし」に傘を「差し」と、目指す意の「指し」を掛けている。「こ」は「来」の命令形である。
 二句「思ひしものを」は、思っていたのに、の意で、「ものを」は逆接の接続助詞である。
 三句「みかさ山」は、大和国の三笠山のことで、「みかさ」に「御笠」すなわち傘を掛けている。次歌の三句にも置かれている。
 四句「かひなく雨の」は、かいもなく雨が、の意である。
 結句「もりにけるかな」は、漏ってしまったことだ、の意で、傘から雨が漏ることをいう。次歌の初句「もるめ」がこの「もり」を受け、人目を見張る意に転じている。

さす:傘を差す意と、目指す意を掛ける
みかさやま:大和国の三笠山。「御笠」を掛ける
もる:雨が漏る
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
松山に浪高き音ぞ聞こゆなる 我よりこゆる人はあらじを
次の歌
もるめのみあまた見ゆればみかさ山 知る知るいかがさしてゆくべき