あしひきの山に生ひたる白樫の
知らじな人を朽木なりとも
- 歌の意味
-
山に生えている白樫の「しら」ではないが、あなたのことなど知るまいよ。たとえ私が朽ち木になろうとも。
- 鑑賞
-
巻第十五 雑歌一 1084
詞書「我を知り顔にな言ひそと、女の言ひて侍りける返事に」
山の白樫の名のように、あなたのことなど知らないことにしよう、たとえ朽ち木になろうとも、と詠んだ歌である。女に知り顔をするなと言われたのに対し、それならば決して知らないことにしようと、すねたような口ぶりで答えている。
詞書によれば、女から、私を知っているような顔をして言わないでほしいと言われたので、その返事として詠んだ歌である。
作者の「みつね」は凡河内躬恒である。古今和歌集の撰者の一人で、三十六歌仙に数えられる。小倉百人一首には「心あてに折らばや折らむ初霜の」の歌が採られている。
初句「あしひきの」は、「山」にかかる枕詞である。
二句「山に生ひたる」は、山に生えている、の意である。
三句「白樫の」は、白樫の木の、の意で、初句からここまでが、同音の「しら」を導いて四句の「知らじ」を起こす序詞となっている。
四句「知らじな人を」は、あなたのことなど知るまいよ、の意で、「じ」は打消の意志、「な」は詠嘆の終助詞である。女の求めに応じて知らないふりを通そうとしており、語順が倒置となっている。
結句「朽木なりとも」は、たとえ朽ち木であっても、の意で、「とも」は逆接の仮定を表す。山の木の縁で「朽木」を置き、身が朽ち果てても知らぬふりを通す意をこめている。
しらかし:ブナ科の常緑樹
くちき:朽ちた木
しりがほ:いかにも知っているような顔つき
- 作者
-
凡河内躬恒
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
住みわびぬ今は限りと山里に 爪木こるべき宿求めてむ
- 次の歌
-
伊勢の海の釣りのうけなるさまなれど 深き心は底に沈めり