海人の住む浦漕ぐ舟の梶をなみ
世をうみ渡る我ぞ悲しき
- 歌の意味
-
漁師の住む浦を漕ぐ舟に梶がないように、頼りとするものもなく、この世をつらく思いながら渡っていく私の身が悲しいことだ。
- 鑑賞
-
巻第十五 雑歌一 1090
詞書「定めたる男もなくて、物思ひ侍りけるころ」
海人の住む浦を漕ぐ舟に梶がないように、頼るものもなくこの世を憂く思いながら渡っていく自分が悲しい、と詠んだ歌である。決まった夫もなく寄る辺ない身の心細さを、梶のない舟にたとえている。
詞書によれば、決まった夫もいなくて、物思いをしていたころの歌である。
作者の小野小町は、平安時代前期の女流歌人で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。美女として多くの伝説を残し、小倉百人一首には「花の色は移りにけりないたづらに」の歌が採られている。
初句「海人の住む」は、漁師の住む、の意である。
二句「浦漕ぐ舟の」は、浦を漕ぐ舟の、の意である。
三句「梶をなみ」は、梶がないので、の意で、「〜を〜み」は原因、理由を表す。初句からここまでが、頼るもののない身をたとえる序となっている。
四句「世をうみ渡る」は、この世をつらく思いながら渡っていく、の意で、「うみ」に海と、つらく思う意の「倦み」を掛け、舟の縁で「渡る」と続けている。
結句「我ぞ悲しき」は、私が悲しい、の意で、「ぞ」は強意の係助詞で、連体形「悲しき」で結ぶ係り結びとなっている。
あま:漁師
かぢ:舟を漕ぐ道具。櫂や櫓
うみ:海の意と、つらく思う意の「倦み」を掛ける
- 作者
-
小野小町
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
これやこの行くも帰るも別れつつ 知るも知らぬもあふさかの関
- 次の歌
-
浜千鳥かひなかりけりつれもなき 人のあたりはなきわたれども