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忘るとは恨みざらなんはし鷹の
とかへる山の椎はもみぢず

歌の意味
忘れたなどと恨まないでほしい。はし鷹が羽を抜け替える山の椎の木は、紅葉することなく色を変えないのだから。
鑑賞
巻第十六 雑歌二 1171

詞書「女のもとより恨みおこせて侍りける返事に」
 忘れたと恨まないでほしい、はし鷹が羽を替える山の椎は紅葉しない、と詠んだ歌である。女から恨み言を言われた男が、はし鷹が羽を抜け替える山でも椎の葉は色を変えないことに、自分の変わらぬ心をたとえている。
 詞書によれば、女のもとから恨みを言ってよこしたので、その返事として詠んだ歌である。巻第十五の第千百二十一首が、変わらないはずの松の色変わりに心変わりを嘆いたのに対し、本歌は色を変えない椎に変わらぬ心を託している。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「忘るとは」は、忘れたとは、の意である。
 二句「恨みざらなん」は、恨まないでほしい、の意で、「なん」は他にあつらえ望む終助詞である。ここで句切れとなる。
 三句「はし鷹の」は、小型の鷹であるはし鷹の、の意である。
 四句「とかへる山の」は、鷹が羽を抜け替える山の、の意で、「とかへる」は鳥の羽が抜け替わることをいう。羽の色が替わる鷹と、色を変えない椎とを対比している。
 結句「椎はもみぢず」は、椎の木は紅葉しない、の意で、常緑の椎に、移ろわない心をたとえている。

はしたか:小型の鷹。ハイタカ
とかへる:鷹などの羽が抜け替わる
しひ:椎の木。常緑樹
もみづ:草木の葉が色づく
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
難波潟みぎはの葦のおいがよに 恨みてぞ経る人の心を
次の歌
をちこちの人目まれなる山里に 家居せんとは思ひきや君