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身を憂しと人知れぬ世を尋ね来し
雲の八重立つ山にやはあらぬ

歌の意味
我が身をつらいと思って、人に知られない暮らしを尋ねてやってきた、雲が幾重にも立つ山こそ、ここではないか。
鑑賞
巻第十六 雑歌二 1173

詞書「返し」
 身をつらいと思い、人に知られない暮らしを求めてやってきた、雲が幾重にも立つ山こそここではないか、と詠んだ歌である。前歌の思いやりに対し、山里の暮らしは不本意なものではなく、憂き世を逃れて自ら求めた住まいだと答えている。
 前歌に対する女の返しである。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「身を憂しと」は、我が身をつらいと思って、の意である。
 二句「人知れぬ世を」は、人に知られない暮らしを、の意で、前歌の「人目まれなる」に応じている。
 三句「尋ね来し」は、尋ねてやってきた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 四句「雲の八重立つ」は、雲が幾重にも立ちこめる、の意で、人里から隔たった深い山を表している。
 結句「山にやはあらぬ」は、山ではないだろうか、の意で、「やは」は反語を表す。前歌の「山里」を受け、こここそ望んだ山だと答えている。

やへ:幾重にも重なること
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
をちこちの人目まれなる山里に 家居せんとは思ひきや君
次の歌
あさなけに世の憂き事をしのびつつ ながめせし間に年は経にけり