うれしきも憂きも心は一つにて
分かれぬものは涙なりけり
- 歌の意味
-
うれしいこともつらいことも、感じる心は一つなので、どちらとも区別がつかないものは涙であったことだ。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌二 1188
詞書「もの思ひ侍りけるころ、やむごとなき高き所より問はせたまへりければ」
うれしいことも憂いことも感じる心は一つで、区別のつかないものは涙であった、と詠んだ歌である。悩みの中で高貴な方から見舞いを受け、そのありがたさに流す涙と、悩みに流す涙とが一つになってこぼれる心を詠んでいる。
詞書によれば、物思いをしていたころ、身分の高い尊い方から見舞いの言葉をいただいたので詠んだ歌である。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「うれしきも」は、うれしいことも、の意で、見舞いを受けた喜びをいう。
二句「憂きも心は」は、つらいことも、心は、の意で、物思いのつらさをいう。
三句「一つにて」は、一つであって、の意である。
四句「分かれぬものは」は、区別のつかないものは、の意である。
結句「涙なりけり」は、涙であったことだ、の意で、「けり」は気づきの詠嘆を表す。
やむごとなし:身分が高く尊い
とふ:見舞う
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
結びおきしかたみの子だになかりせば 何にしのぶの草を摘ままし
- 次の歌
-
惜しからでかなしきものは身なりけり 憂き世背かん方を知らねば