思ひ出づる時ぞかなしき世の中は
空行く雲の果てを知らねば
- 歌の意味
-
思い出す時こそ悲しい。世の中は、空を行く雲の行き着く果てがわからないように、行く末が知れないので。
- 鑑賞
-
巻第十六 雑歌二 1190
詞書「思ふ事侍りけるころ、人につかはしける」
思い出す時こそ悲しい、世の中は空を行く雲の果てがわからないように先が知れないので、と詠んだ歌である。物思いの中で、行方の定まらない雲に、先の見えない人の世のはかなさを重ねている。
詞書によれば、思い悩むことがあったころ、人に送った歌である。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「思ひ出づる」は、思い出す、の意で、字余りとなっている。
二句「時ぞかなしき」は、時こそ悲しい、の意で、「ぞ」は強意の係助詞で、連体形「かなしき」で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなる。
三句「世の中は」は、世の中は、の意である。
四句「空行く雲の」は、空を流れていく雲の、の意で、行方の定まらないもののたとえである。
結句「果てを知らねば」は、行き着く果てがわからないので、の意で、前歌の結句「方を知らねば」と同じ形をとり、二首の結びが対応している。
はて:行き着く所。終わり
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
惜しからでかなしきものは身なりけり 憂き世背かん方を知らねば
- 次の歌
-
あはれとも憂しとも言はじかげろふの あるかなきかに消ぬる世なれば