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岩の上に旅寝をすればいと寒し
音の衣を我に貸さなん

歌の意味
岩の上で旅寝をしているので、たいそう寒い。苔の衣(僧衣)を私に貸してほしい。
鑑賞
巻第十七 雑歌三 1195

詞書「石上といふ寺にまうでて、日の暮れにければ、夜明けてまかり帰らむとてとどまりて、この寺に遍昭侍りと人の告げ侍りければ、もの言ひ心見むとて言ひ侍りける」
 岩の上で旅寝をするのでひどく寒い、あなたの苔の衣を私に貸してほしい、と詠んだ歌である。石上の寺の名を「岩の上」に重ね、僧の着る苔の衣を貸してほしいと呼びかけて、寺にいるという遍昭の心を試している。
 詞書によれば、小町が石上という寺に参詣し、日が暮れたので夜が明けてから帰ろうと泊まっていたところ、この寺に遍昭がいると人が告げたので、言葉をかけて心を試してみようと詠みかけた歌である。次歌は遍昭の返しで、二首は贈答の一組となっている。雑歌三の巻頭に、名高い歌人どうしの機知に富んだ問答を置いている。
 作者の小野小町は、平安時代前期の女流歌人で、六歌仙、三十六歌仙の一人である。小倉百人一首には「花の色はうつりにけりないたづらに」の歌が採られている。
 この贈答は大和物語にも、石上の寺での小町と遍昭の話として見える。
 なお本文の四句は「音の衣を」とあり、読み仮名の行の「こけのころもを」と一致しない。ここでは本文の表記に従うが、意味は読み仮名の行と次歌の「苔の衣」により、苔の衣として解する。

 初句「岩の上に」は、岩の上で、の意で、寺の名「石上」を言い換えて、ごつごつした岩の上の寝床の寒さを表している。
 二句「旅寝をすれば」は、旅先で寝ているので、の意で、「ば」は原因、理由を表す。
 三句「いと寒し」は、たいそう寒い、の意で、ここで句切れとなる。
 四句「音の衣を」は、苔の衣を、の意で、苔の衣は僧の粗末な衣をいう。次歌の二句「苔の衣は」と同じ語で、贈答の要となっている。
 結句「我に貸さなん」は、私に貸してほしい、の意で、「なん」は他にあつらえ望む終助詞である。次歌の四句「かさねば」と呼応している。

いそのかみ:大和の国の地名、石上寺のある地
こけのころも:僧や隠者の着る粗末な衣
かす:貸す
作者
小野小町
出典
後撰和歌集
前の歌
夢にだにうれしとも見ばうつつにて わびしきよりはなほまさりなん
次の歌
世を背く苔の衣はただ一重 かさねば疎しいざ二人寝ん