世を背く苔の衣はただ一重
かさねば疎しいざ二人寝ん
- 歌の意味
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世を捨てた僧の着る苔の衣はただ一重しかない。貸さなければ薄情であるし、重ねるには足りない。さあ、二人で一緒に寝よう。
- 鑑賞
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巻第十七 雑歌三 1196
詞書「返し」
世を背いた身の苔の衣はただ一重しかなく、貸さないのも薄情だから、さあ二人で寝よう、と詠んだ歌である。前歌で衣を貸してほしいと求めた小町に、一重の衣では貸すことも重ねることもできないと応じ、二人で寝ようと戯れて切り返している。
前歌の小町の歌に対する遍昭の返しで、二首は贈答の一組となっている。僧の身でありながら色めいた言葉で応じた機知が、この贈答の興となっている。
作者の遍昭は、俗名を良岑宗貞といい、桓武天皇の孫にあたる。仁明天皇に仕えたが、天皇の崩御を機に出家し、僧正に至った。六歌仙、三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ」の歌が採られている。
この贈答は大和物語にも、石上の寺での小町と遍昭の話として見える。
初句「世を背く」は、世を捨てて出家した、の意で、僧である自分の身をいう。
二句「苔の衣は」は、僧の着る粗末な衣は、の意で、前歌の四句「音の衣を」をそのまま受けている。
三句「ただ一重」は、ただ一枚しかない、の意で、ここで句切れとなる。一重の衣では貸すことも重ねることもできないという含みがある。
四句「かさねば疎し」は、「貸さねば」と「重ねば」を掛けた掛詞で、貸さなければ薄情であり、重ねるには一重しかない、の意を重ねている。前歌の結句「貸さなん」に応じている。「一重」と「重ね」は縁語である。
結句「いざ二人寝ん」は、さあ二人で寝よう、の意で、「ん」は勧誘を表す。衣を貸す代わりに共寝を持ちかけて、戯れて切り返している。
かさぬ:衣を「貸さぬ」の意と、衣を「重ぬ」の意を掛ける
そむく:世を捨てて出家する
- 作者
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遍昭
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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岩の上に旅寝をすればいと寒し 音の衣を我に貸さなん
- 次の歌
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逢ふ事の年ぎりしぬるなげきには 身の数ならぬものにぞありける