世とともに我がぬれぎぬとなるものは
わぶる涙の着するなりけり
- 歌の意味
-
いつもいつも私の濡れ衣となるものは、思い悩んで流す涙が着せるのであった。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌三 1202
詞書「無き名立ち侍りけるころ」
いつも私の濡れ衣となるものは、嘆いて流す涙が着せるのだった、と詠んだ歌である。身に覚えのない噂を「濡れ衣」といい、それを涙で濡れた衣に重ねて、根拠のない浮き名に悩む心を表している。
詞書によれば、根も葉もない噂が立っていたころの歌である。前歌に続き、身に覚えのない浮き名を嘆いている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「世とともに」は、いつもいつも、絶えず、の意である。
二句「我がぬれぎぬと」の「ぬれぎぬ」は、無実の罪の意と、涙に濡れた衣の意を掛けた掛詞である。
三句「なるものは」は、なるものは、の意で、四句以下でその正体を明かす。
四句「わぶる涙の」は、思い悩んで流す涙が、の意である。
結句「着するなりけり」は、着せるのであった、の意で、「衣」の縁語「着す」を用い、「なりけり」で気づきを表している。
ぬれぎぬ:根拠のない噂や無実の罪の意と、涙に濡れた衣を掛ける
わぶ:思い悩む
きす:着せる
- 作者
-
よみ人しらず
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
世の中を知らずながらも津の国の なには立ちぬるものにぞありける
- 次の歌
-
憂けれども悲しきものをひたぶるに 我をや人の思ひ捨つらん