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紀の国の名草の浜は君なれや
事のいふかひありと聞きつる

歌の意味
紀伊の国の名草の浜とは、あなたのことなのだろうか。そこには言うかいのある貝があると聞いたが、あなたに打ち明けて慰められたことだ。
鑑賞
巻第十七 雑歌三 1223

詞書「紀の介に侍りける男のまかり通はずなりにければ、かの男の姉のもとに愁へおこせて侍りければ、いと心憂きことかなと言ひつかはしたりける返事に」
 紀伊の国の名草の浜はあなたなのだろうか、言うかいがあると聞いた、と詠んだ歌である。慰めてくれた男の姉を、「慰さ」に通う名草の浜にたとえ、打ち明けたかいがあったと感謝している。
 詞書によれば、紀伊の介であった男が通って来なくなったので、女がその男の姉のもとへ嘆きを訴えたところ、姉がまことにつらいことだと言ってよこした、その返事の歌である。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「紀の国の」は、紀伊の国の、の意で、男が紀伊の介であったことにちなんでいる。
 二句「名草の浜は」は、紀伊の国の名草の浜は、の意で、地名に「慰む」の意を響かせている。
 三句「君なれや」は、あなたなのだろうか、の意で、「や」は疑問の係助詞である。
 四句「事のいふかひ」の「かひ」は、「甲斐」と浜の「貝」を掛けた掛詞で、言うだけのかいの意と、浜の貝の意を重ねている。
 結句「ありと聞きつる」は、あると聞いた、の意で、三句の「や」を受けて連体形「つる」で結ぶ係り結びとなっている。

なぐさのはま:紀伊の国の海辺、名に「慰む」の意を響かせる
いふかひ:言うだけのかいの意と、浜の「貝」を掛ける
すけ:国司の次官
うれふ:嘆きを訴える
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
大空に行きかふ鳥の雲路をぞ 人のふみ見ぬものと言ふなる
次の歌
波にのみ濡れつるものを吹く風の たよりうれしき海人の釣舟