波にのみ濡れつるものを吹く風の
たよりうれしき海人の釣舟
- 歌の意味
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波にばかり濡れていたのに、吹く風のよい便りがうれしい、海人の釣舟であることよ。
- 鑑賞
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巻第十七 雑歌三 1224
詞書「住み侍りける女、宮仕へし侍りけるを、友だちなりける女、同じ車にて貫之が家にまうで来たりけり、貫之が妻、客人に饗せんとてまかり降りて侍りけるほどに、かの女を思ひかけて侍りければ、忍びて車に入れ侍りける」
波にばかり濡れていたのに、吹く風の便りがうれしい海人の釣舟だ、と詠んだ歌である。思いを寄せる女と近づくきっかけを、釣舟を岸へ運ぶ風の便りにたとえ、涙に濡れていた身の喜びを表している。
詞書によれば、貫之の妻である宮仕えの女と、その友だちの女が同じ車で貫之の家に来た。妻が客をもてなそうと車から降りていた間に、貫之はその友だちの女に思いを寄せていたので、ひそかに車に歌を差し入れた、という事情である。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。紀望行の子で、古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐日記の作者としても知られ、小倉百人一首には「人はいさ心も知らずふるさとは」の歌が採られている。
初句「波にのみ」は、波にばかり、の意で、涙をたとえている。本巻の第千二百十首、第千二百十二首と同じく「波」を詠み込んでいる。
二句「濡れつるものを」は、濡れていたのに、の意で、「ものを」は逆接を表す。
三句「吹く風の」は、吹く風の、の意である。
四句「たよりうれしき」は、便りがうれしい、の意で、「たより」は風が舟を運ぶことと、女に近づくよい機会とを重ねている。
結句「海人の釣舟」は、漁師の釣舟、の意で、体言止めとなっている。自分を波間の釣舟にたとえている。
たより:よい機会、便宜
あるじす:客をもてなす
まらうと:客
- 作者
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紀貫之
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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紀の国の名草の浜は君なれや 事のいふかひありと聞きつる
- 次の歌
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緑なるまつほど過ぎばいかでかは 下葉ばかりももみぢせざらん