今さらに我は帰らじ滝見つつ
呼べど聞かずと問はば答へよ
- 歌の意味
-
今さら私は都へ帰るまい。滝を見続けていて、呼んでも聞こえないのだと、もし人が尋ねたら答えてくれ。
- 鑑賞
-
巻第十七 雑歌三 1238
詞書「山踏みし始めける時」
今さら私は帰るまい、滝を見つめていて呼んでも聞こえないと、人が問うたら答えてくれ、と詠んだ歌である。山に入って修行を始めた時の、俗世に戻るまいとする強い決意を、滝の響きに呼び声もかき消されるさまに託している。
詞書によれば、仏道修行のため山歩きをし始めた時に詠んだ歌である。前の二首に続き、滝を詠んでいる。
作者の僧正遍昭は、原文に「僧正遍昭」とあり、俗名を良岑宗貞といい、桓武天皇の孫にあたる。仁明天皇に仕えたが、天皇の崩御を機に出家し、僧正に至った。六歌仙、三十六歌仙の一人である。
初句「今さらに」は、今さら、の意である。
二句「我は帰らじ」は、私は帰るまい、の意で、「じ」は打消の意志を表す。ここで句切れとなる。
三句「滝見つつ」は、滝を見続けていて、の意で、「つつ」は継続を表す。
四句「呼べど聞かずと」は、呼んでも聞こえないのだと、の意で、滝の響きに呼び声もかき消されることをいう。
結句「問はば答へよ」は、もし人が尋ねたら答えてくれ、の意で、「ば」は仮定を表す。
やまぶみ:仏道修行のために山を歩くこと
- 作者
-
遍昭
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
宮の滝むべも名に負ひて聞こえけり 落つる白泡の玉と響けば
- 次の歌
-
滝つ瀬の渦巻きごとに尋め来れど なほ尋ね来る世のうきめかな