たらちめはかかれとてしもむばたまの
我が黒髪を撫でずやありけん
- 歌の意味
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母は、こうなれと思って私の黒髪を撫でたのではなかっただろうに。
- 鑑賞
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巻第十七 雑歌三 1240
詞書「初めて頭下ろし侍りける時、物に書きつけ侍りける」
母は、こうなれと思って私の黒髪を撫でたのではなかっただろう、と詠んだ歌である。出家して髪を下ろす時、幼いころ黒髪を撫でて行く末を願ってくれた母を思い、その願いに背く身の悲しみを表している。
詞書によれば、初めて剃髪した時、物に書きつけた歌である。作者は仕えた仁明天皇の崩御を機に出家したと伝える。本巻の第千百九十六首では僧の身で小町と戯れた作者が、ここでは出家の時の心の痛みを詠んでいる。
作者の遍昭は、俗名を良岑宗貞といい、桓武天皇の孫にあたる。仁明天皇に仕えたが、天皇の崩御を機に出家し、僧正に至った。六歌仙、三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ」の歌が採られている。
初句「たらちめは」は、母は、の意である。
二句「かかれとてしも」は、こうなれと思って、の意で、「しも」は強めを表す。出家して髪を下ろした今の姿を指している。
三句「むばたまの」は、「黒」にかかる枕詞である。
四句「我が黒髪を」は、私の黒髪を、の意である。本巻の第千二百十九首の二句「我が黒髪も」と同じ語で、そちらは老いて白くなる髪、こちらは剃り落とす髪を詠んでいる。
結句「撫でずやありけん」は、撫でたのではなかっただろう、の意で、「や」は反語の係助詞で、連体形「けん」で結ぶ係り結びとなっている。
たらちめ:母
かしらおろす:髪を剃って出家する
- 作者
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遍昭
- 出典
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後撰和歌集
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滝つ瀬の渦巻きごとに尋め来れど なほ尋ね来る世のうきめかな
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植ゑし時契りやしけん武隈の 松をふたたびあひ見つるかな