- 歌の意味
-
あの人の心が嵐の風のように冷たいので、木の芽も見えず枝はしおれてしまう。この目も涙で見えず、身はしおれるばかりである。
- 鑑賞
-
巻第十八 雑歌四 1282
詞書「人のもとにつかはしける」
人の心が嵐の風のように寒いので、木の芽も見えず枝がしおれる、と詠んだ歌である。冷たい人の心を嵐にたとえ、「木の芽」に「この目」を掛けて、涙で目も見えずにしおれる身を嘆いている。
詞書によれば、ある人のもとに送った歌である。
作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵を受け、のちに敦慶親王との間に中務を生んだ。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。
初句「人心」は、あの人の心は、の意である。本巻の第千二百六十三首も同じ初句で、人の心の頼みがたさを詠んでいる。
二句「嵐の風の」は、嵐の風のように、の意である。巻第十七の第千二百四十六首も、人の心を嵐にたとえている。
三句「寒ければ」は、冷たいので、の意で、「ば」は原因、理由を表す。
四句「このめも見えず」の「このめ」は、「木の芽」と「この目」を掛けた掛詞で、木の芽も見えない意と、涙で目も見えない意を重ねている。
結句「枝ぞしをるる」は、枝がしおれる、の意で、「ぞ」を受けて連体形「しをるる」で結ぶ係り結びとなっている。涙に濡れてしおれる身を重ねている。
このめ:「木の芽」の意と、「この目」を掛ける
しをる:草木がしおれる、涙に濡れる
- 作者
-
伊勢
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
我ならぬ草葉も物は思ひけり 袖より外に置ける白露
- 次の歌
-
憂きながら人を忘れんことかたみ 我が心こそ変はらざりけれ