惜しと思ふ心はなくてこのたびは
行く馬に鞭をおほせつるかな
- 歌の意味
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名残を惜しいと思う心はなくて、今度の旅は、行こうとする馬に、かえって鞭を当てて急がせてしまったことだ。
- 鑑賞
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巻第十九 離別歌 1311
詞書「伊勢にまかりける人、とく往なんと心もとながると聞きて、旅の調度など取らするものから、畳紙に書きて取らする、名をばむまと言ひけるに」
惜しむ心はなくて、この旅は行く馬に鞭を当ててしまった、と詠んだ歌である。早く出立したがっている人に旅の道具を贈ることで、かえって出発を急がせたと、別れを惜しむ心を裏返しに表している。
詞書によれば、伊勢へ下る人が早く出かけたいと気をもんでいると聞いて、旅の道具などを贈ったが、その折に畳紙に書いて渡した歌である。その人の名は「むま」といったという。次歌はその返しで、二首は贈答の一組となっている。
作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。
初句「惜しと思ふ」は、名残惜しいと思う、の意である。
二句「心はなくて」は、心はなくて、の意で、本心とは裏腹の言い方である。
三句「このたびは」の「たび」は、「度」と「旅」を掛けた掛詞である。
四句「行く馬に鞭を」は、行こうとする馬に鞭を、の意で、字余りとなっている。「馬」に相手の名の「むま」を掛け、急ぐ相手をはやる馬にたとえている。
結句「おほせつるかな」は、負わせてしまったことだ、の意で、「かな」は詠嘆を表す。旅の道具を贈って出立を促したことをいう。
たび:「度」の意と、「旅」を掛ける
てうど:身の回りの道具、調度
たたうがみ:懐に入れておく畳んだ紙
おほす:負わせる、当てる
- 作者
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よみ人しらず
- 出典
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後撰和歌集
- 前の歌
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打ち捨てて君しいなばの露の身は 消えぬばかりぞありと頼むな
- 次の歌
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君が手をかれゆく秋の末にしも 野飼ひに放つ馬ぞ悲しき