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さらばよと別れし時に言はませば
我も涙におぼほれなまし

歌の意味
「さようなら」と別れたその時に言っていたならば、私も涙におぼれてしまったことだろう。
鑑賞
巻第十九 離別歌 1341

詞書「返し」
 さようならと別れた時に言っていたら、私も涙におぼれてしまっただろう、と詠んだ歌である。前歌で何も告げずに去ったことを恨まれたのに対し、別れの言葉を口にすれば涙にくれてしまうので、黙って去ったのだと答えている。
 前歌の贈太政大臣藤原時平の歌に対する伊勢の返しである。
 作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵を受け、のちに敦慶親王との間に中務を生んだ。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。

 初句「さらばよと」は、それではさようならと、の意である。
 二句「別れし時に」は、別れたその時に、の意である。
 三句「言はませば」は、もし言っていたならば、の意で、「ませば」は反実仮想の仮定を表す。前歌の四句「知られぬ」に応じている。
 四句「我も涙に」は、私も涙に、の意である。
 結句「おぼほれなまし」は、おぼれてしまっただろう、の意で、三句の「ませば」と呼応して反実仮想を表す。

おぼほる:水におぼれる、涙にくれる
作者
伊勢
出典
後撰和歌集
前の歌
来むと言ひて別るるだにもあるものを 知られぬ今朝のましてわびしさ
次の歌
春霞はかなくたちて別るとも 風より外に誰か訪ふべき