君が世はつるの郡にあえて来ね
定めなき世の疑ひもなく
- 歌の意味
-
あなたの寿命は、甲斐の都留の郡の名の鶴にあやかって千年を得て帰って来てほしい。定めのない世だという疑いもないように。
- 鑑賞
-
巻第十九 離別歌 1344
詞書「甲斐へまかりける人につかはしける」
あなたの命は都留の郡にあやかって来てほしい、定めのない世の疑いもなく、と詠んだ歌である。甲斐へ下る人に、甲斐の国の「都留」の郡の名に千年を生きるという「鶴」を重ね、その長寿にあやかって無事に帰ってほしいと祝っている。
詞書によれば、甲斐へ下る人に送った歌である。
作者の伊勢は、伊勢守藤原継蔭の娘で、宇多天皇の女御藤原温子に仕えた。宇多天皇の寵を受け、のちに敦慶親王との間に中務を生んだ。三十六歌仙の一人で、小倉百人一首には「難波潟短き葦のふしの間も」の歌が採られている。
初句「君が世は」は、あなたの寿命は、の意である。
二句「つるの郡に」の「つる」は、甲斐の国の「都留」の郡と、千年を生きるとされる「鶴」を掛けた掛詞である。
三句「あえて来ね」は、あやかって来てほしい、の意で、「ね」は願望を表す終助詞である。ここで句切れとなる。
四句「定めなき世の」は、無常で定めのない世の、の意である。
結句「疑ひもなく」は、疑いもないように、の意で、四句とともに三句に倒置でかかっている。
つる:甲斐の国の「都留」の意と、長寿の鳥の「鶴」を掛ける
あゆ:あやかる、似る
こほり:国の下の行政区画、郡
- 作者
-
伊勢
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
目に見えぬ風に心をたぐへつつ やらば霞の別れこそせめ
- 次の歌
-
後れずぞ心に乗りてこがるべき 波に求めよ舟見えずとも