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かねてより涙ぞ袖をうち濡らす
浮かべる舟に乗らむと思へば

歌の意味
旅立つ前からもう、涙が袖を濡らしている。波に浮かぶ頼りない舟に乗ろうと思うと。
鑑賞
巻第十九 離別歌 1347

詞書「舟にてものへまかりける人につかはしける」
 前もって涙が袖を濡らす、浮かぶ舟に乗ろうと思うと、と詠んだ歌である。これから舟に乗って旅立つことを思うと、出立の前から涙が袖を濡らすと、旅の心細さと別れの悲しみを訴えている。
 詞書は前の伊勢の歌と同じく「舟にてものへまかりける人につかはしける」とあるが、歌の内容からは、舟で旅立つ側の思いを詠んだ歌とみられる。次歌は伊勢の返しで、二首は贈答の一組となっている。
 作者は「よみ人しらず」で、詠み手の名は伝わらない。

 初句「かねてより」は、前もって、旅立つ前から、の意である。
 二句「涙ぞ袖を」は、涙が袖を、の意で、「ぞ」は強意の係助詞である。
 三句「うち濡らす」は、濡らす、の意で、二句の「ぞ」を受けて連体形「濡らす」で結ぶ係り結びとなっている。ここで句切れとなり、下の句と倒置になっている。
 四句「浮かべる舟に」は、波に浮かんでいる舟に、の意で、頼りない舟旅を表している。
 結句「乗らむと思へば」は、乗ろうと思うと、の意で、「ば」は原因、理由を表す。

かねて:前もって、あらかじめ
作者
よみ人しらず
出典
後撰和歌集
前の歌
舟なくは天の川まで求めてむ 漕ぎつつ潮の中に消えずは
次の歌
おさへつつ我は袖にぞせきとむる 舟越す潮になさじと思へば