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春の夜の夢のなかにも思ひきや
君なき宿を行きて見むとは

歌の意味
春の夜のはかない夢の中でさえ思っただろうか。あなたのいない家を、こうして訪ねて見ることになろうとは。
鑑賞
巻第二十 慶賀歌 1387

詞書「兄の服にて、一条にまかりて」
 春の夜の夢の中でさえ思っただろうか、あなたのいない家を訪ねて見ようとは、と詠んだ歌である。兄の喪中に、主を失った一条の家を訪ね、はかない春の夜の夢にさえ思わなかった事態に直面した悲しみを詠んでいる。
 詞書によれば、兄の喪に服していた時、一条の家に出向いて詠んだ歌である。次歌はその返しで、二首は贈答の一組となっている。
 作者の「太政大臣」は藤原忠平である。藤原基経の四男で、摂政、関白、太政大臣を歴任し、貞信公と諡された。小倉百人一首には「小倉山峰のもみぢ葉心あらば」の歌が採られている。

 初句「春の夜の」は、春の夜の、の意で、短くはかないもののたとえである。
 二句「夢のなかにも」は、夢の中でさえ、の意で、次歌の結句「夢うつつとも」に受けられている。
 三句「思ひきや」は、思っただろうか、いや思いもしなかった、の意で、「や」は反語を表す。ここで句切れとなる。
 四句「君なき宿を」は、あなたのいない家を、の意で、亡き兄の家をいう。
 結句「行きて見むとは」は、訪ねて見ることになろうとは、の意で、三句の「思ひきや」と倒置になっている。

ぶく:喪に服すること、また喪服
やど:家、住まい
作者
藤原忠平
出典
後撰和歌集
前の歌
まだ知らぬ人も有りける東路に 我も行きてぞ住むべかりける
次の歌
宿見れば寝ても覚めても恋しくて 夢うつつとも分かれざりけり