きくにだに露けかるらむ人の世を
目に見し袖を思ひやらなむ
- 歌の意味
-
聞くだけでも菊の露のように涙に濡れるという人の世の別れを、目の当たりに見た私の袖を思いやってほしい。
- 鑑賞
-
巻第二十 慶賀歌 1410
詞書「返し」
聞くだけでも露けくなる人の世を、目に見た私の袖を思いやってほしい、と詠んだ歌である。前歌の「きく」を受け、聞くだけで涙を流すあなたにも増して、死別を目の当たりにした私の袖がどれほど涙に濡れているか察してほしいと答えている。
前歌の藤原守文の歌に対する返しである。
作者の「きよただ」は藤原清正である。藤原兼輔の子で、三十六歌仙の一人に数えられる。
初句「きくにだに」の「きく」は、「聞く」と「菊」を掛けた掛詞で、前歌の三句「きく」を受けている。「だに」は軽いものを挙げて重いものを類推させる。
二句「露けかるらむ」は、露に濡れているだろう、の意で、前歌の「白露」を受けている。
三句「人の世を」は、人の世の別れを、の意である。
四句「目に見し袖を」は、目の当たりに見た私の袖を、の意で、初句の「聞く」と対をなしている。
結句「思ひやらなむ」は、思いやってほしい、の意で、「なむ」は他にあつらえ望む終助詞である。
きく:「聞く」意と、花の「菊」を掛ける
- 作者
-
藤原清正
- 出典
-
後撰和歌集
- 前の歌
-
世の中の悲しきことをきくの上に 置く白露ぞ涙なりける
- 次の歌
-
引き植ゑし二葉の松はありながら 君が千歳のなきぞ悲しき