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梅の花それとも見えず久方の
天霧るこのなべて降れれば

歌の意味
梅の花はそれと見分けることもできない。空をかき曇らせてこのように一面に降っているので。
鑑賞
巻第一 春歌 12

詞書「題しらず」
 空一面を曇らせて降るものに紛れて、梅の花がそれと見分けられないという歌である。白い梅の花と降りしきる雪とが区別できない景を詠み、雪と梅の見立ての典型を示している。
 作者の「柿本人麿」は飛鳥時代の歌人柿本人麻呂である。持統天皇の時代を中心に宮廷歌人として活躍し、後世歌聖と仰がれた。三十六歌仙の一人に数えられる。
 古今和歌集の冬歌に、よみ人しらずとして四句を「天霧る雪の」とする形で見え、左注に柿本人麿の歌とする説が記されている。
 なお本文の四句は「あまきるこの」とあり、読み仮名の行の「あまきるゆきの」と一致しない。ここでは本文の表記に従う。

 初句「梅の花」は、見分けられないものとしてまず梅を提示する。
 二句「それとも見えず」は、梅の花だとも見分けられない意で、ここで句切れとなる二句切れである。
 三句「久方の」は「天」にかかる枕詞である。
 四句「天霧るこの」は、空を曇らせて降るこのものの意で、本文の表記では字足らずとなる。古今和歌集の形では「天霧る雪の」とあり、降るものは雪である。
 結句「なべて降れれば」は、一面に降っているので、の意で、二句の理由を倒置して示す。本巻の第九首が雪を花と見たのに対し、本歌は花が雪に紛れるという逆の構図をとる。

あまぎる:空一面に霧や雲がかかって曇る
作者
柿本人麻呂
出典
拾遺和歌集
前の歌
うち霧らし雪は降りつつしかすがに わが家の園に鶯ぞ鳴く
次の歌
梅が枝に降りかかりてぞ白雪の 花のたよりに折らるべらなる