古典和歌stream

野辺見れば若菜摘みけりむべしこそ
垣根の草も春めきにけれ

歌の意味
野辺を見ると若菜を摘んでいたのだった。なるほどそれで、垣根の草も春らしくなっていたのだ。
鑑賞
巻第一 春歌 19

詞書「恒佐右大臣の家の屏風に」
 野辺で人々が若菜を摘んでいるのを見て、なるほどそれで家の垣根の草までも春めいてきたのだと納得する歌である。広い野辺の景から身近な垣根へと目を移し、春の気配が隅々まで及んでいることを詠む。詞書によれば、右大臣藤原恒佐の家の屏風に添えた歌である。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐日記の作者としても知られ、三十六歌仙の一人に数えられる。

 初句「野辺見れば」は、野辺を見るとの意で、屏風絵の野の景を示す。
 二句「若菜摘みけり」は、「けり」が気づきの詠嘆を表し、二句切れである。前歌の野焼きを経て、実際に若菜を摘む場面へと進む。
 三句「むべしこそ」は、「むべ」がなるほどの意で、「し」は強意の副助詞、「こそ」は係助詞で結句の已然形「けれ」で結ぶ。
 四句「垣根の草も」は、野辺に対して身近な垣根を示し、遠近の対比をなす。
 結句「春めきにけれ」は、「春めく」が春らしくなる意で、「こそ」を受けて已然形で結ぶ。

はるめく:春らしくなる
作者
紀貫之
出典
拾遺和歌集
前の歌
明日からは若菜摘まむと片岡の 朝の原は今日ぞ焼くめる
次の歌
春日野に多くの年はつみつれど 老いせぬものは若菜なりけり