古典和歌stream

あだなれど桜のみこそ故里の
昔ながらのものにはありけれ

歌の意味
はかないものではあるけれど、桜だけが、この古い里で昔のままのものであったよ。
鑑賞
巻第一 春歌 48

詞書「宰相中将敦忠朝臣の家の屏風に」
 桜ははかなく散るものではあるが、荒れて変わり果てた古い里では、桜だけが昔と変わらぬ姿で咲いていると詠む。人の世の移ろいと、毎年変わらず咲く桜との対比が主題である。詞書によれば、宰相中将藤原敦忠の家の屏風に添えた歌である。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心となり、仮名序を書いた。土佐日記の作者としても知られ、三十六歌仙の一人に数えられる。

 初句「あだなれど」は、はかないものではあるが、の意である。
 二句「桜のみこそ」は、「こそ」の係り結びで結句の已然形「けれ」で結ぶ。
 三句「故里の」は、古くなった里、かつて栄えた地をいう。次歌も同じく「故里の」を三句に置き、二首が並べられている。
 四句「昔ながらの」は、昔のままの、の意である。
 結句「ものにはありけれ」は、「けれ」で結び、変わらぬものは桜だけだったという気づきを示す。

ふるさと:古くなった里。昔栄えた土地
作者
紀貫之
出典
拾遺和歌集
前の歌
春の田を人にまかせて我はただ 花に心をつくる頃かな
次の歌
散り散らず聞かまほしきを故里の 花見て帰る人も逢はなん