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身にかへてあやなく花を惜しむかな
生けらば後の春もこそあれ

歌の意味
我が身に代えてもと、わけもなく花を惜しむことだ。生きていれば、後の春もあるというのに。
鑑賞
巻第一 春歌 54

詞書「権中納言義懐の家の桜の花惜しむ歌詠み侍りけるに」
 命に代えてもと思うほど花を惜しんでいるが、生きていれば来年の春もまた花を見られるのだから、それは道理に合わないことだと自らを省みる歌である。花を惜しむ心の激しさと、それを冷静に見つめる理とが一首の中に並んでいる。詞書によれば、権中納言藤原義懐の家で、桜の花を惜しむ歌を詠んだ折の作である。
 作者の「藤原長能」は藤原倫寧の子で、蜻蛉日記の作者藤原道綱母の弟である。能因法師の師としても知られ、中古三十六歌仙の一人に数えられる。

 初句「身にかへて」は、自分の命に代えて、の意である。
 二句「あやなく花を」は、「あやなく」がわけもなく、筋の通らないの意で、本巻の第十六首、第三十一首の「あやなし」「あやな」に通じる。
 三句「惜しむかな」は、「かな」の詠嘆で三句切れとなる。
 四句「生けらば後の」は、生きていたならば後の、の意である。
 結句「春もこそあれ」は、「こそ」と已然形「あれ」の係り結びで、後の春もあるのだと強調する。

かふ:取り替える。引き換えにする
作者
藤原長能
出典
拾遺和歌集
前の歌
桜色にわが身は深くなりぬらん 心にしめて花を惜しめば
次の歌
見れど飽かぬ花の盛りに帰る雁 なほ故里の春や恋しき