古典和歌stream

彦星の思ひますらん事よりも
見る我苦し夜の更けゆけば

歌の意味
彦星が思いをつのらせているであろうことよりも、それを見ている私の方が苦しい。夜が更けていくので。
鑑賞
巻第三 秋歌 147

詞書「題しらず」
 夜が更けていくにつれ、逢瀬を待つ彦星の思いよりも、それを見守る自分の方がかえって苦しいと詠む歌である。他人の恋を見守る者の気のもみようを、彦星以上と述べたところに趣がある。
 作者の「湯原玉」は湯原王である。本文は「玉」と記すが「王」の誤りと見られる。志貴皇子の子で、奈良時代の皇族歌人として万葉集に歌を残す。
 この歌は万葉集巻八に湯原王の七夕の歌として見える。

 初句「彦星の」は、本巻の第百四十二首と同じ初句で、七夕の一連の中で再び彦星の心を思いやる。
 二句「思ひますらん」は、思いをつのらせているだろう、の意で、「らん」は現在推量の助動詞である。
 三句「事よりも」は、そのことよりも、の意で、彦星と自分とを比べる。
 四句「見る我苦し」は、見ている私の方が苦しい、の意である。ここで句切れとなる。前歌が地上から天の川を見上げたのを受け、見る者の苦しさを詠んでいる。
 結句「夜の更けゆけば」は、夜が更けていくので、の意で、本巻の第百四十三首の二句と同じ語句である。倒置によって苦しさの理由を後から示している。

ひこぼし:牽牛星。七夕の夜に天の川を渡って織女に逢うとされる
作者
湯原王
出典
拾遺和歌集
前の歌
さ夜更けて天の川をぞ出でて見る 思ふさまなる雲や渡ると
次の歌
年にありて一夜妹に逢ふ彦星も 我にまさりて思ふらんやぞ