たなばたに脱ぎて貸しつる唐衣
いとど涙に袖や濡るらん
- 歌の意味
-
織女に脱いで貸してやった唐衣は、別れの涙で、いっそう袖が濡れていることだろう。
- 鑑賞
-
巻第三 秋歌 149
詞書「延喜御時月次御屏風に」
七夕に織女へ手向けとして脱いで貸した衣は、逢瀬の後の別れの涙で、袖がいっそう濡れているだろうと思いやる歌である。七夕に衣を供える風習を踏まえ、貸した衣を通して織女の悲しみを思いやっている。詞書によれば、醍醐天皇の延喜の御代に、月ごとの行事を描いた屏風に添えた歌である。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。
初句「たなばたに」は、織女に、の意である。
二句「脱ぎて貸しつる」は、脱いで貸した、の意で、「つる」は完了の助動詞「つ」の連体形である。七夕に織女へ衣を供える風習を踏まえる。
三句「唐衣」は、美しい衣をいう。
四句「いとど涙に」は、いっそう涙で、の意で、逢瀬の後の別れの涙をいう。
結句「袖や濡るらん」は、袖が濡れているだろうか、の意で、「や」は疑問の係助詞であり、「らん」は現在推量の助動詞の連体形で結ぶ係り結びとなる。本巻の第百四十二首が妻を待つ宵を詠んだのに対し、本歌は逢瀬の後の別れを思いやり、逢う前と別れた後とで対をなしている。
たなばた:織女星。また七月七日の行事
からころも:中国風の美しい衣。衣の美称
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
年にありて一夜妹に逢ふ彦星も 我にまさりて思ふらんやぞ
- 次の歌
-
一年に一夜と思へどたなばたの 逢ひ見む秋の限りなきかな