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いづこにも草の枕をすずむしは
ここを旅とも思はざらなん

歌の意味
どこにいても草を枕とする鈴虫は、ここを旅先とは思わないでほしいものだ。
鑑賞
巻第三 秋歌 179

詞書「前栽に鈴虫を放ち侍りて」
 庭の前栽に鈴虫を放ち、どこにいても草を枕として寝る鈴虫なのだから、この庭を旅先とは思わず住みかとしてほしいと願う歌である。旅寝を意味する草枕の語を、草に住む鈴虫に生かした機知の歌である。詞書によれば、庭の前栽に鈴虫を放ったときの歌である。
 作者の「伊勢」は、平安時代前期から中期の女流歌人で、藤原継蔭の娘である。宇多天皇の中宮温子に仕え、中務の母となった。三十六歌仙に数えられる。

 初句「いづこにも」は、どこにいても、の意である。前歌の「いづこなるらん」と同じく「いづこ」の語を用い、虫の居場所をめぐる二首が並ぶ。
 二句「草の枕を」は、草を枕として、の意で、旅寝を意味する「草枕」の語を踏まえる。
 三句「すずむしは」は、「草の枕をす」の「す」と「すずむし」とを重ね、草を枕とする意と鈴虫の名とを掛けている。
 四句「ここを旅とも」は、ここを旅先とも、の意である。
 結句「思はざらなん」は、思わないでほしい、の意で、「なん」は他に対する願望の終助詞である。前歌が虫の居場所を探しあぐねたのに対し、本歌は虫を自ら庭に住まわせようとしており、探す側と迎える側とで対をなしている。

すずむし:草を枕と「す(為)」る意と、虫の名の鈴虫を掛ける
くさのまくら:草を結んで枕とすること。旅寝。草枕
せんざい:庭に植えた草木。前栽
作者
伊勢
出典
拾遺和歌集
前の歌
おぼつかないづこなるらん虫の音を 尋ねば草の露や乱れん
次の歌
秋来れば機織る虫のあるなへに 唐錦にも見ゆる野辺かな