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秋来れば機織る虫のあるなへに
唐錦にも見ゆる野辺かな

歌の意味
秋が来ると、機を織るという名の虫がいるのにつれて、野辺も唐錦を織りなしたように見えることだ。
鑑賞
巻第三 秋歌 180

詞書「屏風に」
 秋になると機織り虫が鳴くのにあわせて、色とりどりの草花が咲く野辺が、まるで唐錦を織り上げたように見えると詠む歌である。機織り虫の名から錦を連想し、秋の野の彩りを機知的にたたえている。詞書によれば、屏風に添えた歌である。
 作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。

 初句「秋来れば」は、秋が来ると、の意で、「ば」は恒常的な条件を表す。
 二句「機織る虫の」は、機を織るような声で鳴く虫をいい、きりぎりすの類とされる。前歌の鈴虫に続き、虫の名に趣向を求めている。
 三句「あるなへに」は、いるのにつれて、の意で、「なへに」は二つの事柄が並行することを表す。
 四句「唐錦にも」は、唐錦のようにも、の意で、二句の「機織る」と縁語をなす。本巻の第百九十六首以下で紅葉が錦に見立てられるのに先立ち、本歌では草花の野辺が錦に見立てられている。
 結句「見ゆる野辺かな」は、見える野辺であることよ、の意で、「かな」は詠嘆の終助詞である。

はたおるむし:機を織る音に似た声で鳴く虫。きりぎりすの類とされる
からにしき:中国渡来の美しい錦。唐錦
作者
紀貫之
出典
拾遺和歌集
前の歌
いづこにも草の枕をすずむしは ここを旅とも思はざらなん
次の歌
契りけん程や過ぎぬる秋の野に 人まつ虫の声の絶えせぬ