古典和歌stream

桜花露に濡れたる顔見れば
泣きて別れし人ぞ恋しき

歌の意味
桜の花が露に濡れている様子を見ると、泣きながら別れたあの人が恋しく思われる。
鑑賞
巻第六 別歌 302

詞書「題しらず」
 露に濡れた桜の花の姿に、涙に濡れて別れた人の顔を重ね、その人を恋しく思う歌である。花の「顔」という見立てによって、自然の景から別れの記憶へと心が移っていく様を表している。

 初句「桜花」は、桜の花をいう。前歌の春霞に続き、春の景物によって別れを詠む歌が並ぶ。次歌の第三百三首も散る花を詠んでいる。
 二句「露に濡れたる」は、露に濡れている、の意で、「たる」は存続の助動詞である。露は涙をたとえる。
 三句「顔見れば」は、花の姿を顔に見立て、それを見ると、の意である。
 四句「泣きて別れし」は、泣きながら別れた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。二句の露と呼応している。
 結句「人ぞ恋しき」は、その人が恋しい、の意で、係助詞「ぞ」を受けて連体形「恋しき」で結ぶ。

かほ:顔。ここでは花の姿を人の顔に見立てる
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
春霞たつ暁を見るからに 心ぞそらになりぬべらなる
次の歌
散る花は道見えぬまでうづまなん 別るる人も立ちや止まると