夏衣たち別るべき今宵こそ
ひとへに惜しき思ひ添ひぬれ
- 歌の意味
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夏衣を裁つように、あなたが旅立ち別れていくはずの今夜こそ、ひとえに名残惜しい思いが加わることだ。
- 鑑賞
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巻第六 別歌 305
詞書「天暦の御時、小弐命婦豊前にまかり侍りける時、大盤所にて餞せさせ給ふに、被け物給ふとて」
夏衣を裁つの意を掛けて、旅立ちの別れの今夜こそ、ひとえに惜しむ思いが募ると詠む歌である。贈り物の衣にちなむ縁語を重ね、仕えた女房との別れを惜しむ天皇の心を表している。詞書によれば、村上天皇の天暦の御代に、小弐命婦が豊前国へ下る時、台盤所で餞別の宴を催し、褒美の衣を与えるにあたって詠んだ歌である。原文の詞書には「天暦仰時」とあるが、「天暦の御時」の誤りと見て表記する。
作者の「御製」は村上天皇である。醍醐天皇の皇子で、その治世は天暦の治と称えられた。梨壺に和歌所を置き、後撰和歌集の撰進を命じた。
初句「夏衣」は、夏に着る薄い衣をいい、「裁つ」「単衣」の縁で二句と四句を導く。巻頭の第三百一首からの春の別れを受け、ここで季節は夏に移る。
二句「たち別るべき」は、衣を裁つ意と、旅立つ意とを「たち」に掛けている。本巻の第三百二十一首の「たつより袖の」も、衣を裁つ意と旅立つ意とを重ねており、衣を贈る別れの歌として呼応している。
三句「今宵こそ」は、今夜こそ、の意で、係助詞「こそ」による強調である。
四句「ひとへに惜しき」は、夏衣の「単衣」と、ひたすらに、の意の「偏に」とを掛けている。
結句「思ひ添ひぬれ」は、思いが加わったことだ、の意で、「ぬれ」は完了の助動詞「ぬ」の已然形であり、係助詞「こそ」を受けて結ぶ。「添ふ」も衣の縁語である。
たつ:衣を裁つ意と、旅立つ意とを掛ける
ひとへ:裏地のない衣の単衣と、ひたすらにの意の偏とを掛ける
だいばんどころ:宮中で女房が詰め、配膳などを整えた所。台盤所
かづけもの:褒美として与える衣服。被け物
はなむけ:旅立つ人を送る餞別。またその宴
- 作者
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村上天皇
- 出典
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拾遺和歌集
- 前の歌
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雁がねの帰るを聞けば別れ路は 雲居遥かに思ふばかりぞ
- 次の歌
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忘るなよ別れ路に生ふる葛の葉の 秋風吹かば今帰り来む