遠く行く人のためにはわが袖の
涙の玉も惜しからなくに
- 歌の意味
-
遠くへ旅立って行く人のためならば、私の袖にこぼれる涙の玉も、惜しくはないのだ。
- 鑑賞
-
巻第六 別歌 328
詞書「題しらず」
遠くへ行く人のためならば、袖にこぼれる涙の玉さえ惜しくはないと詠む歌である。涙を宝の玉に見立て、それを惜しまず流すほどの別れの悲しみと、旅立つ人への思いの深さを表している。
作者の「つらゆき」は紀貫之である。古今和歌集の撰者の中心人物で、仮名序を執筆し、土佐日記を著した。三十六歌仙に数えられる。
初句「遠く行く」は、遠くへ旅立って行く、の意である。
二句「人のためには」は、その人のためならば、の意である。
三句「わが袖の」は、私の袖の、の意である。
四句「涙の玉も」は、涙を玉に見立てたもので、宝の玉のように大切なものをいう。次々歌の第三百三十首の「糸」は、玉を貫く糸の縁で響き合っている。
結句「惜しからなくに」は、惜しくはないのに、の意で、「なく」は打消の助動詞「ず」のク語法であり、余情を残して言いさしている。
たま:玉。ここでは涙のしずくを玉に見立てる
- 作者
-
紀貫之
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
あまたには縫ひ重ねねど唐衣 思ふ心は千重にぞありける
- 次の歌
-
惜しむとて止まる事こそかたからめ わが衣手を干してだに行け