古典和歌stream

忘れにし人のさらにも恋しきか
むげにこじとは思ふものから

歌の意味
私を忘れてしまった人が、改めて恋しく思われるのだろうか。もう決して来ないだろうとは思うものの。
鑑賞
巻第七 物名 365

詞書「けにごし」
 自分を忘れてしまった人が、もう決して来ないだろうと思いながらも、改めて恋しく思われると詠む歌である。あきらめきれない恋の心の中に、四句の「むげにこじ」の音の続きに、詞書の「けにごし」の名を隠している。詞書の「けにごし」は、この歌に詠み込まれた物の名である。
 古今和歌集の物名にも「けにごし」の題で矢田部名実の歌があり、同じく「にこし」の音に牽牛子の名を隠している。

 初句「忘れにし」は、忘れてしまった、の意で、「に」は完了、「し」は過去の助動詞である。
 二句「人のさらにも」は、その人が改めて、の意である。
 三句「恋しきか」は、恋しいのか、の意で、ここで句切れとなる。
 四句「むげにこじとは」は、まったく来ないだろうとは、の意で、「じ」は打消推量の助動詞である。「げにこじ」に「けにごし」の名を隠している。前歌の朝顔に続き、朝顔の種の名が詠まれる。
 結句「思ふものから」は、思うものの、の意で、「ものから」は逆接を表す。倒置によって三句に続けている。

けにごし:牽牛子。朝顔の種子のことで、薬に用いた。「むげに来じ」の音の続きに隠して詠み込む
作者
よみ人しらず
出典
拾遺和歌集
前の歌
我が宿の花の葉にのみ寝る蝶の いかなるあさかほかよりは来る
次の歌
秋の野に花てふ花を折りつれば わびしらにこそ虫も鳴きけれ