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今来むと言ひて別れし朝より
思ひくらしの音をのみぞ泣く

歌の意味
すぐに来ようと言って別れたあの朝から、一日中あなたを思って暮らし、ひぐらしのように声をあげて泣いてばかりいる。
鑑賞
巻第七 物名 370

詞書「ひぐらし」
 すぐに来ると言って別れた朝から、一日中その人を思って暮らし、ひぐらしのように声をあげて泣いてばかりいると詠む歌である。来ない人を待つ嘆きを蝉の声に重ね、四句の「思ひくらし」に、詞書の「ひぐらし」の名を掛けて詠み込んでいる。詞書の「ひぐらし」は、この歌に詠み込まれた物の名である。
 作者の「忠岑」は、古今和歌集の撰者の一人で、壬生忠見の父である。三十六歌仙に数えられる。
 古今和歌集の恋歌四の素性法師の「今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ち出でつるかな」も、来ると言った人を待ち続ける歌であり、同じ初句で始まっている。

 初句「今来むと」は、すぐに来ようと、の意で、「む」は意志の助動詞である。
 二句「言ひて別れし」は、言って別れた、の意で、「し」は過去の助動詞「き」の連体形である。
 三句「朝より」は、その朝から、の意である。
 四句「思ひくらしの」は、一日中思い暮らす意の「思ひ暮らし」と、蝉の「ひぐらし」とを掛けている。次歌の第三百七十一首、次々歌の第三百七十二首も同じ題で、ひぐらしの歌が三首並んでいる。
 結句「音をのみぞ泣く」は、声をあげて泣いてばかりいる、の意で、係助詞「ぞ」を受けて連体形「泣く」で結ぶ。

ひぐらし:蜩。夏から秋に鳴く蝉。「思ひ暮らし」に掛けて詠み込む
おもひくらす:一日中思い続けて過ごす
あした:朝
作者
壬生忠岑
出典
拾遺和歌集
前の歌
滝つ瀬の中にたまつむしら波は 流るる水を緒にぞ貫きける
次の歌
杣人は宮木ひくらしあしひきの 山の山彦声とよむなり