思ふどちところもかへず住みへなん
たちはなれなば恋しかるべし
- 歌の意味
-
親しい者同士、住む所も変えずに、ずっと住み続けよう。離れ離れになったならば、恋しいにちがいない。
- 鑑賞
-
巻第七 物名 416
詞書「栃、野老、橘」
親しい者同士で住む所も変えずに住み続けよう、離れ離れになったなら恋しいにちがいないと詠む歌である。親しい人と離れたくない思いを詠みながら、一首の中に、詞書の「栃」「野老」「橘」の三つの名を隠している。詞書の三つの名は、この歌に詠み込まれた物の名である。
作者の「すけみ」は藤原輔相である。藤原弘経の子で、藤六と呼ばれた平安時代中期の歌人である。物名の歌を得意とし、家集に藤六集がある。
初句「思ふどち」は、親しく思う者同士、の意で、「どち」に「とち」の名を隠している。
二句「ところもかへず」は、住む所も変えずに、の意で、「ところ」に「野老」の名を掛けている。
三句「住みへなん」は、住み続けよう、の意で、「なん」は完了の助動詞「ぬ」の未然形に意志の助動詞がついたものである。ここで句切れとなる。
四句「たちはなれなば」は、離れてしまったならば、の意で、「たちはな」に「橘」の名を隠している。一首に三つの名を隠す趣向は、本巻の第四百二十九首、第四百三十首の十二支の歌にも見られる。
結句「恋しかるべし」は、恋しいにちがいない、の意で、「べし」は推量の助動詞である。
とち:栃。実を食用とする木。「思ふどち」の音の続きに隠して詠み込む
ところ:野老。山芋の一種。住む「所」に掛けて詠み込む
たちばな:橘。「立ち離れ」の音の続きに隠して詠み込む
どち:仲間。同士
すみふ:住み続ける。住み経
- 作者
-
藤原輔相
- 出典
-
拾遺和歌集
- 前の歌
-
霞分けいまかり帰るものならば 秋来るまでは恋ひやわたらん
- 次の歌
-
あしひきの山の木の葉の落ちくちば いろのをしきぞあはれなりける