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さをしかのとも惑はせる声すなり
妻や恋しき秋の山辺に

歌の意味
雄鹿が、仲間を惑わせるような声で鳴いているのが聞こえる。妻が恋しいのだろうか、秋の山辺で。
鑑賞
巻第七 物名 428

詞書「辛といふことを」
 秋の山辺で、雄鹿が仲間を惑わせるような声で鳴いているのが聞こえ、妻が恋しいのだろうかと思いやる歌である。妻を恋う鹿の声という秋の歌の趣の中に、初句から二句にかけての「しかのとも」の音の続きに、詞書の「辛」の名を隠している。詞書によれば、「かのと」という言葉を詠み込んだ歌である。
 作者の「恵慶法師」は、平安時代中期の僧で、播磨国の国分寺の講師を務めたとされる。中古三十六歌仙に数えられる。

 初句「さをしかの」は、雄鹿が、の意である。末の「かの」と二句の頭の「と」とを続けて「かのと」の名を隠している。
 二句「とも惑はせる」は、仲間を惑わせるような、の意である。前歌の「かのえさる」に続き、干支にかかわる名が詠まれる。
 三句「声すなり」は、声が聞こえる、の意で、「なり」は音を聞いて判断する推定の助動詞である。ここで句切れとなる。
 四句「妻や恋しき」は、妻が恋しいのか、の意で、係助詞「や」を受けて連体形「恋しき」で結ぶ。
 結句「秋の山辺に」は、秋の山辺で、の意で、倒置によって鳴く場所を後に示している。

かのと:辛。十干の一つ。「さを鹿の友」の音の続きに隠して詠み込む
さをしか:雄の鹿
作者
恵慶
出典
拾遺和歌集
前の歌
かのえさる舟待てしばし言問はん 沖の白波まだ立たぬまに
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一夜ねてうしとらこそは思ひけめ うき名たつみぞわびしかりける